とちぎ教科書裁判通信

大田原市の扶桑社版歴史・公民教科書採択取り消し裁判の私的記録集

2013-06

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ボランティア情報2013年5月号「市民文庫書評」

『OUT(アウト)』桐野夏生著 講談社文庫、上巻667円・下巻619円(税別)

評者 白崎一裕

無意味で苦痛しかない人生を人は生きることができるのか?ニーチェが生涯を賭けて追及した課題の回答の片鱗が本書にはある。しかし、作者は決してこの問いを暮らしから遊離した形而上的な問いにはしていない。

物語は東京郊外にある深夜の弁当工場から始まる。この工場へパート労働に通う4人の女たちが物語の主人公である。作者は、別作品『メタボラ』でも若者を中心とする派遣労働の現場を濃密に描写していたが、本書においても弁当工場の労働現場のリアルさが際立つ。労働は社会の参加を促し自立した尊厳ある生活の基盤となる~~、このような労働観を信じている人もたくさんいるだろう。しかし、4人の女たちには「午前零時から朝五時半まで延々と休みなく、ベルトコンベアで運ばれる弁当を作り続けなければならない」出口のない労働現場なのだ。作品の中心人物、香取雅子には次のように述懐させている。「新青梅街道から流れてくる排気ガスに混じって、揚げ物の油臭い匂いが微かに漂っていた。これ
から雅子が出勤する弁当工場から来る匂いだ。《帰りたい》この匂いを嗅ぐと、この言葉が思い浮かぶ。」しかし、帰りたい場所は、彼女たちにはどこにもないのだ。「家庭崩壊」「DV(ドメスティックバイオレンス)」「高齢者介護問題」「女性差別」「貧困」等々の彼女たちを取り巻く人生の困難さが、彼女たちを、この出口のない弁当工場にしか居場所がない存在にしていく。弁当工場は、現代という時代の困難さをすべて凝縮・集積した象徴的存在なのだ。

その主人公たちが、この出口なしの労働現場から脱出する事件に遭遇する。その事件とは「死体解体」という犯罪である。なぜ、彼女たちは、この恐るべき犯罪に手を染めることとなったのか?作者は、その回答を作品の中で提示してない。犯罪の動機は主人公たちにも「よくわからない」のだ。しかし、この「よくわからなさ」こそが現代という時代を表現しているというべきだろう。そして、この現代を生き抜く範型として作者は、香取雅子という人物を登場させている。雅子は、死体解体犯罪をリードして仲間をまとめ上げ・擁護して仕事をすすめる。彼女には、安易な希望も絶望も見出すことができない。

冒頭に紹介したニーチェは、自らの無意味で苦痛しかない人生を、あらゆるものに頼ることなくその丸ごとの存在として引き受け立ち向かう人間像を提案した。雅子の存在はそれに近い。この物語の最終場面で読者は、許されない犯罪を犯したという事実を超越して、雅子の生き方から限りない勇気を与えられるだろう。「現代」というとてつもない魔物に立ち向かう勇気を。
スポンサーサイト

 | HOME | 

FC2Ad

 

プロフィール

白崎一裕

Author:白崎一裕
1960年生まれ。とちぎ教科書裁判(現在のところ結審しているので元)<本人訴訟>原告。今後の裁判を準備中、反貧困ネットワーク栃木共同代表、ベーシックインカム・実現を探る会代表。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

FC2カウンター

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。