とちぎ教科書裁判通信

大田原市の扶桑社版歴史・公民教科書採択取り消し裁判の私的記録集

2017-07

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『オランダの教育――――多様性が一人ひとりの子供を育てる』「市民文庫」書評

『オランダの教育――――多様性が一人ひとりの子供を育てる』 リヒテルズ直子著
平凡社 定価:本体1,600円(税別)
評者 白崎一裕
(月刊とちぎVネットボランティア情報VOL.154 2008年9月号掲載)

教育関係の話題には事欠かないのだが、最近、マスコミをにぎわせた話題としては、東京都杉並区立和田中のいわゆる「和田スペ」問題があるだろう。和田中は、リクルート社から公立中学の「民間校長」へと転進した藤原和博さんのもと「よのなか科(世の中科)」なる授業改革など多くの問題提起をしてきた「公立学校」だ。「和田スペ」は進学塾として著名なSAPIXの授業を中学で補習授業の一環としておこなうというもので、進学塾と公立中学の提携事業のような形をとっている。これに関しては、大手新聞社論説を含めて賛否両論・喧々諤々の論争がおきた。画期的な民間的発想による教育改革の試みと高い評価を与えるものもあれば、より学力格差を広げ、学校と地域との連携を分断する最悪の方法と強く批判するものもあった。しかし、この問題の根源にあるのは、1980年代前半の「中曽根臨教審」以来の「教育の自由化論」にある、ということにふれた考察はあまりなかったように思う。官僚組織化し、硬直化した学校教育を市場に開放して活力ある教育をめざすーーー。こういうふれこみではじまった「教育の自由化論」だった。

この「教育の自由」ということをめぐり混迷を深める日本の教育状況に、きわめて明快な方針を指し示してくれるのが、本書にある「オランダの教育」なのだ。オランダは、オランダ憲法23条に規定されている「教育は自由である」という文言そのもので、学区もなく、子ども達や保護者は自ら行きたい学校を自由に選択できる。また、ある一定の要件をみたせば公的な補助金をうけて市民が自らの欲する「私立」学校も設立できる。また、そういう私立も公立も学費は無料だ。こういう制度の下、多様なオールタナティブスクール(シュタイナー・ダルトン・フレネ・モンテッソリー・イエナなどの教育思想にもとづくもの)やイスラム移民の子ども達の学校も教育活動をおこなっている。また、教育の方針は、学校ごとに教師ひとりひとりが独自の教材を工夫して決めていき、日本のような検定教科書のようなものもない。学校運営には親たちも参加する権利があり、大学は、ほとんど定員がなく入学試験がない(一部、人気の医学部などは「くじ引き」だが、最近、入試的方法を導入しだしたということも聞いている)。

このように並べていると、だから、「教育の自由」はすばらしいーーそういうことを民間活力でおこなうのが日本の教育改革ではないかーーという声が聞こえてきそうである。しかし、このオランダの「教育の自由」は、ちょっと違うのだ。1917年に憲法23条の規定が成立するまでには「学校法闘争」とよばれる90年に及ぶ長い試行錯誤の歴史が背景にある。これは、オランダの宗教改革によるプロテスタント・カトリックそして宗教とは距離をおく啓蒙主義の教育をめぐる政治的論争の歴史でもある。その結果、オランダは、どのような宗教的信条による学校の設立(とそれらの学校への国の補助金)をも認める「寛容」な公教育制度へと変革をとげたのだ。この長い論争は、「公教育と何か?」ということを市民が深く自覚することとなった。そして、それは、オランダの民主制の発展に寄与するものであれば、その枠組みの中でのすべての思想・信条による「教育の自由」を幅広く認めて育てていこうという気風を生み出したのだ。

オランダは、いままで述べてきたような憲法下での公教育の枠組みを「インスペクター制度」という教育監督局による査定制度において保障している。この教育監督局は行政と距離をおく第三者機関であり、「査定」という一方的なものではなく学校・教育現場との相互評価・対話を重視している。
もともと、公教育というのは、どのような社会階層に属する子ども達であっても平等に憲法を読み・実践することのためにつくられたものだ。だから、「教育の自由」とはいっても、それは憲法の枠組みの中での「自由」であり、欲望の連鎖で構築されている市場原理による「自由」とは、まったく異なっている。最初に述べた、日本の「教育の自由」をめぐる「自由」の混乱とは、まさにこの点にあるのだ。市場の自由競争の中に教育・学校問題を投げ込んでおけば、すべての教育問題は解決される等という能天気なものではない。そのことをオランダの教育は教えてくれる。もちろん、オランダの教育現場は問題がないーーということではない。むしろ、問題だらけなのだ。しかし、本書は、その教育の問題をオランダ憲法23条の1項にある「教育は持続的な(永遠の)責務」の文言どおりに、市民が力強く解決していく力をみせてくれる。

 | HOME | 

FC2Ad

 

プロフィール

白崎一裕

Author:白崎一裕
1960年生まれ。とちぎ教科書裁判(現在のところ結審しているので元)<本人訴訟>原告。今後の裁判を準備中、反貧困ネットワーク栃木共同代表、ベーシックインカム・実現を探る会代表。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

FC2カウンター

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。