とちぎ教科書裁判通信

大田原市の扶桑社版歴史・公民教科書採択取り消し裁判の私的記録集

2017-08

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隔月刊「ボランティア情報・市民文庫書評」『日本の年金』駒村康平著 岩波新書

『日本の年金』駒村康平著 岩波新書 定価(本体820円+税)

評者 白崎一裕

新幹線で焼身自殺した人物が年金制度に対する不満を日常的に口にしていたという報道があった。この人物の行為は何の罪もない人たちを巻き添えにして、まったく擁護することはできない。ただ、年金制度と言うものの背景・思想を再考してみる必要はある。年金制度は、日本の社会保障政策すなわち福祉国家の中心に位置している。この福祉国家の源流にある政策思想にケインズ・ヴェバリッジ報告というものが存在する。まだ第二次大戦最中の1941年に出されたヴェバリッジ報告は、大戦後の福祉国家のあり方を提言したものだ。ここで提出されている福祉国家は、右肩上がりの経済成長が前提で、男性の働き手とそれを支える女性の家事労働が基本であり、その男性働き手が病気などの理由で労働ができなくなったときに福祉がそれを補うという構図になっている。あくまでも「右肩上がりの成長経済」と「家父長制」が大前提となっている。 

しかし、現在の日本経済をみてみると経済はほとんどゼロ成長。女性の働き手はどんどん増え、一人親世帯も増えている。人口減少にも歯止めがかからない。つまりは、ケインズ・ヴェバリッジ型の福祉国家の前提がくずれているということなのだ。
この福祉国家のジリ貧現象が、直接、年金制度に投影されてくる。本書の著者は、1942年に労働者年金保険(後の厚生年金)としてスタートしてから70年以上たつ公的年金制度の改革のために政府の委員を歴任してきた経歴をもつ。その著者が、団塊の世代が75歳になる2025年が社会保障の危機の年となるだろうと予測している。この危機とは人口の多い世代の高齢化により社会保障費全体が増大することからきているが、具体的には次のようにまとめられている。

1、今後、さらなる高齢化にともない、若い世代よりも貧困率が高い高齢者数がいっそう増加すること。2、世帯規模が小さくなり単身高齢者世帯が増大すること。3、国民年金の未納化がすすむこと。4、国民(基礎)年金がマクロ経済スライドによって30%低下すること。5、年金から天引きされる介護保険料、後期高齢者医療保険料が急上昇し、手取り年金額が大幅に減少すること。

この中で、3の国民年金の未納化について注目してみよう。厚生年金より遅れて制度化された国民年金制度は、もともと、自営業者とその家族従業者を対象としたものだった。しかし、高度経済成長後の産業構造の変化は、国民年金の加入者の職業を大きく変えた。2011年の調査では、自営業などの国民年金加入者は22・2%にすぎない。他の被保険者の多くが非正規労働者や無職の人々なのである。したがって、年金を納めたくても払えない人々が多く必然的に納付率が低くなってしまうのだ。この労働内容の変化は、成長経済の終焉と密接に関係がある。これらの年金制度の困難性を克服するために、著者は、働き方に無関係な一元的「厚生」年金制度の確立や年金水準の引き下げをフォローして高齢貧困者のための扶助制度の確立を提言している。しかし、冒頭に述べたように福祉国家の前提が崩れてしまっている中では、その有効性に疑問が残る。ここは、思い切ってポスト成長経済のための生涯を通じての普遍的所得保証制度の確立とその社会像を模索すべきではないかと思う。世界史的転換には、大胆な発想の転換こそが重要!それが評者の提言である。

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プロフィール

白崎一裕

Author:白崎一裕
1960年生まれ。とちぎ教科書裁判(現在のところ結審しているので元)<本人訴訟>原告。今後の裁判を準備中、反貧困ネットワーク栃木共同代表、ベーシックインカム・実現を探る会代表。

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